2021.05.06
新型コロナに突然の仲間の死…困難乗り越え目指す日本一 障害者野球【岡山】
日本一を目指して活動する障害者野球チームが岡山県にあります。新型コロナウイルスの影響で、相次ぐ大会の中止に加え、突然の仲間の死…。困難に立ち向かいながら野球にかける選手たちを追いました。
(岡山桃太郎 槙原淳幹主将)
「やるからには日本一目指したい」
(岡山桃太郎 吉田健一郎さん)
「春の大会は優勝を一度もしていないので、優勝目指し、みんなで頑張りたい」
障害があっても野球を楽しみ、自分が出来る精一杯のプレーをする障害者野球。
岡山県のチーム「岡山桃太郎」は、下は高校生から上は81歳まで、約30人の選手が同じ白球を追いかけています。
全国37の障害者野球チームは、毎年春と秋、日本一をかけて戦います。
秋の大会では、2度の全国制覇を成し遂げた岡山桃太郎。
今度は、春の大会での初優勝を狙っています。
しかし、新型コロナの影響で、2020年の全国大会は中止に。
2年ぶりに開催される春の大会は、開催地の兵庫県に緊急事態宣言が発令され、チームは出場を棄権せざるを得なくなりました。
初優勝は、また、2022年に持ち越しです。
(岡山桃太郎 薮下勝浩コーチ)
「センバツが中止にならない限り、準備しておかないと」
メンバーには甲子園出場者も…障害や事情は様々
選手の障害や事情は様々ですが、みんな野球に特別な思いを抱いています。
浅野さんは、名門・倉敷商業高校で、甲子園出場を経験した高校球児でした。
6年前、交通事故で生死をさまよいましたが、障害者野球で第2の野球人生を歩んでいます。
(岡山桃太郎 浅野僚也さん)
「昔はポジションがピッチャーだったので、注目された。(障害者野球に出会って)良かった。周りのことを考えられる人になれたかな」
吉田さんは、小学生の時、テレビで見た選手に憧れ、野球を始めました。
脳性まひのため、リハビリを続けながら練習に参加し、いま憧れの選手とプレーしています。
桃太郎のエース早嶋さんは、障害者野球の世界大会で、MVPにも選ばれた実力の持ち主です。
小さな袋の付いたグローブは、左手でグローブを持てない早嶋さん専用です。
練習試合で交流した高校生のアイデアで完成し、2020年プレゼントされました。
(岡山桃太郎 早嶋健太さん)
「そのグローブを使って、もう1回世界の舞台で戦いたい」
公式戦で、まだ1度も使っていないこのグローブで、勝利をつかもうと意気込んでいます。
御年78歳の副松さんは、37年前のチーム結成以来のメンバーです。
総監督として選手を見守ってきました。
*息子の介護の様子
重い障害がある息子を介護するのが副松さんの日常です。
*副松さんと長男の会話
「(副松さん)こっち向いて。(竹下美保記者)(Q.金メダルもらった時はうれしい?)(長男)(うん)。(竹下美保記者)(Q.お父さんに野球続けてほしい?)(長男)(うん)」
副松さんの願いは、長男の胸にもう一度金メダルをかけてあげることです。
4月の練習日、チームの様子がいつもと違っていました。
突然の仲間の死…
*遺影をかける様子
(岡山桃太郎 樋口郁雄さん)
「雄姿というか、遺影というか、杉野さんが見守ってくれるだろう」
チームの代表を務めていた杉野正直さんが、突然、病気で亡くなったのです。
(ボランティア 栢野寿志さん)
「杉野さんにLINEしておいた。(8時半からだから)遅れんように来てよって。まだ生きてるかなと思って。ひょっと返事が来たらどうするかな」
杉野さんは、チーム立ち上げ当時のメンバーでした。
まだバリアフリーという言葉も、一般的ではなかった時代、障害者の居場所を作ってきました。
(亡くなった杉野正直さん)
「遊びというのではなく、できることを一生懸命やる。若い選手が入ってくれば、捕り方など年配が伝えるべきだと思っている」
一線を退いてからは、影で選手たちを支えてきました。
練習場所の確保や大会の申し込み、選手の飲み物や救急箱の用意、懇親会の準備まで、杉野さんがやってきました。
*以前の練習で杉野さんが検温する様子
杉野さんは、もういません。
*浅野さんの母による検温の様子
「体温測定します」
*ラインを引く選手
(岡山桃太郎 樋口郁雄さん)
「してもらって当たり前のようだったが、(杉野さん)が抜けて、こんなことまでしていてくれたのかと…。改めて杉野さんの偉大さを感じる」
(副松正信総監督)
「(チーム)立ち上げた時からずっと一緒だった。(葬式で)ユニホームや帽子を(ひつぎに)全部入れてあった。見た時泣いてしまって、何も言えなかった」
杉野さんが欠けたチームは…
*黙とう
(薮下勝浩コーチ)
「杉野代表に黙とうを捧げたいと思います。黙とう」
(岡山桃太郎 薮下勝浩コーチ)
「クーラーボックス用意できてません。各自、自分で用意してください。当然、救急箱もありません。ある程度のものは、自分で準備して持って行ってください」(岡山桃太郎 妻木和正さん)
「とりあえず、自分のことは自分でやる。分からないことがあったら聞いてください」
杉野さんが欠けたチームは、練習さえスムーズにいかなくなっていました。
(岡山桃太郎 早嶋健太さん)
「チームがガタガタ。大黒柱が1本なくなった感じ。僕自身も甘いし、みんなが大黒柱になれればいい」
(岡山桃太郎 薮下勝浩コーチ)
「チーム一丸となって、もう一度、新生桃太郎を作り直していかないと」
優勝が狙えるチームに成長した岡山桃太郎は、若い選手たちを中心に熱心に練習を重ねています。
しかし、その陰に、見えない大きな支えがあったことに選手たちは、改めて気付かされました。
杉野さんは、仲間たちが本当の強さを身につけるために、最後の贈り物を届けてくれたのかもしれません。
(岡山桃太郎 浅野僚也さん)
「杉野さんがいない分、みんなでカバーし合おと、改めて思えるようなチームになれたらいいのかな」
(岡山桃太郎 吉田健一郎さん)
「僕ができることならチームのためにやっていこうと思う」
(岡山桃太郎 早嶋健太さん)
「亡くなったが、みんなの心の中に杉野さんいるので…」
新型コロナに仲間の死…。
困難を乗り越え手にする日本一の知らせは、天国の仲間にも届くに違いありません。