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2022.04.05

【手話が語る福祉】触るアート!?目隠しをして暗い室内で…ユニバーサルミュージアムとは【岡山・香川】

作品を見るのではなく触ることでアートを楽しもうというイベントが3月、岡山市で行われました。見えないからこそ感じられる新たな感覚。その先につながるものとは。

暗い室内を前の人の肩や腕につかまり一列になって歩きます。
触るアート01
(参加者)「うぇ。何これ」
(講師)「何でしょう?」
(参加者)「何これ。やだ」

こちらは粘土を使った作品づくり。ただし、参加者は目隠しをしています。
触るアート03
(国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
「視覚に惑わされず自分の感覚、自分の体内と対話をして作ってもらう。かえって視覚、見ることが邪魔になる。視覚から離れる開放感。見る見られるというものから自由になっていることを体験してもらいたい」
触るアート04
こう話すのは3月19日に岡山県立美術館で行われたワークショップで講師を務めた広瀬浩二郎さん(54)。

広瀬さんは東京出身で13歳の時に病気で失明しました。
触るアート05
盲学校を卒業後、京都大学から大学院まで進学、現在は文化人類学を研究しています。

大阪にある国立民族学博物館。世界各地の文化を研究し日本における文化人類学の研究拠点となっています。
触るアート06
(篠田吉央キャスター)
「こんにちは広瀬さん。岡山放送の篠田です。よろしくお願いします」
(国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
「よろしくお願いします」

ここで准教授を務めている広瀬さん。専門は接触、触ることを通じ文化を理解しようという触文化論です。
触るアート07
(国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
「目というのは凄く便利で情報を得たり伝えるのが速いが、人間せっかく色んな感覚を持っているんだから、もっと色んな感覚をのびのび使ったら発見もあるし気付きもある。目が見えてる人たちにこそ触るという世界を伝えたい」
触るアート08
こうした思いを形にしたのが2021年秋に開催したユニバーサル・ミュージアム展(誰もが楽しめる博物館)。約280点全ての展示作品に直接触ることができるアート展です。

この天井から無数に吊り下げられた布はかき分けながら進むことで、全身で触り心地を感じることができる現代アート。
触るアート09
こちらの表面がざらざらした動物のオブジェは、体内に手を入れると内側はつるつるしていて不思議な感覚です。
触るアート10
(篠田吉央キャスター)
「こちらにはホッキョクグマの像があるが、これも触ることができるんです。何より石なんでひんやり冷たい印象がありますね。顔の部分、口の中の歯などを触ると迫力があるなと感じます。」
触るアート12
「ただ、お腹や足を触っていくと丸みがあって優しさも伝わってきますね。作品というと正面から見るばかりなんですが、触ると色んな角度から感じることができますね」

また、コロナ禍で非接触が叫ばれる今だからこその思いが広瀬さんにはあります。

(国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
「長い人間の歴史は、ふれあい・接触することによって育まれてきたということがあるし、そこから新しい文化・コミュニケーションが育ってきたことがあるので、(コロナ禍で)全部、非接触・リモートでいいのか。」
触るアート13
「そういうことを問いかける意味でも、ユニバーサル・ミュージアム、触るということを続けていかないと」

その一環として3月、訪れたのが岡山だったのです。

(国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
「点字ブロック発祥の地ですし、関西から広がっていくという意味では岡山をステップにできるのは非常にありがたい。岡山から全国を目指したい」

岡山県立美術館でのワークショップでは9歳から44歳の5人が参加。参加者は何をするのか知らされていません。
触るアート15
(篠田吉央キャスター)
「こちらがワークショップの会場です。窓は暗幕で覆われています。参加者はこのようにアイマスクを着けて、さらに電気を消して真っ暗闇の中で体験します」

視覚を制限した中で、まず出された課題は粘土で中ぐらいの大きさの玉を作ること。中ぐらいとは、どのくらいの大きさなのか。見えないので誰かと比較することもできません。
 
出来上がったあと他の人が作った玉を触ってみると。

(参加者)
「でっか。誰のこれ?形がきれい」

そして次は、形のない死後の世界を表現します。

(国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
「死んだ人の霊と言っても怖いのかな、優しいのかな。あっちから見るか、こっちから見るかで捉え方は変わってきます」

大量の粘土を山のように積み上げたり横に広げたり。視覚に頼らず自分のイメージを形にしていきます。
触るアート18
(参加者)
「地獄をイメージしたので、大きい山にギザギザの刃を付けて」
「山の前に魂を置いた」
「細長い山を作って、その周りに幽霊がいる世界を作った」

自分がどんなものを作ったのか最後まで見ないのもこのワークショップの特徴です。
触るアート20
(参加者)
「暗闇は何も見えなくて怖いものだと思っていたけどきょう体験して意外とドキドキ、ワクワクするんだなと思った」
触るアート21
「目で見ない手の感覚や、耳で聞く音があって新しい感覚に気付けた」

(国立民族学博物館 広瀬浩二郎准教授)
「障害がある人も視覚を使えないだけでなく、視覚を使わない生活をしている人たちなんだという理解が広がると、多様性を尊重することにつながって、単なる美術館の体験が子供たちの生き方や今後の進む道にもリンクしてくるのではという期待はすごくある」
触るアート22
見えないからこそ感じることができるアートの世界。視覚に頼らない経験は障害への理解にもつながるはずです。

(篠田吉央キャスター)
触ることは、たくさんのことを教えてくれます。